山田孝之THE CHANGE访问②
山田孝之「初めて動いて喋る瞬間まで、だいたい憂鬱です」役にチェンジする理由
-演じた男は自分とはかけ離れた人格だった
この取材の前日、山田孝之さんは新作映画『唄う六人の女』の試写会で舞台挨拶に立った。山田さんは、怒りの感情を隠そうとしないガサツな不動産業者、宇和島を演じている。今、目の前にいる、言葉の一つひとつを丁寧に紡ごうとしてくれる山田さんとは、かけ離れた人物だ。
これまでさまざまな役を演じ、時にはクセが強い人物になる場合もあった山田さん。どのようにして役に「CHANGE」しているのだろう。
山田「この役を演じる前は、少し憂鬱でした。舞台となった森林は、とても気持ちのいい空間だったんです。
ただ、演じる宇和島という男は、僕とは逆の感性の持ち主です。森の樹々や草花、動物、昆虫などに対して、“恨みでもあるのか?”というくらい忌み嫌う。暴言を吐く。自分は自然が好きなので、宇和島を演じるのは気が重かった。“こういう人にはなりたくない”“この人とは仲よくはなれない”と感じる人物に自分がなるわけですから。気持ちを切り替えるのに時間がかかりました。
過去にもそういう経験はいっぱいありました。宇和島に限らず、怒りや憎しみを胸に抱いた人物を演じるときは、撮影前に憂鬱になる場合が多いです。恨み、妬み、そんな気持ちには、なるべくなりたくないですから」
森林でのロケは京都の南丹市美山町の原生林を使って行われた。山田さんは約一か月、豊かな自然のなかで過ごしている。そのような素晴らしい環境のなか、自然を嫌悪する人物を演じるのは、相当な精神力が必要だっただろう。
-登場人物と対話しながら役をつくる
ときには「こういう人にはなりたくない」と思い、演じる前は気分が晴れないという山田さん。そんな役をあえて引き受けるのは、なぜなのだろう。
山田「今、このタイミングで自分にこの役を演じる仕事がきたのは、僕が表現して映像に残す理由がきっとあるはずなんです。
演じるってことは、観る人に“何かを感じるきっかけ”“変えるきっかけ”を届けている行為だと思うんです。僕が演じる役が、誰かの心に変化をもたらすきっかけになる。そのために自分は今、好きになれない登場人物を演じなきゃいけない役割があるのだろうって。だからこそ、全力で演じましたよ。
ただ、やっぱり、いざクランクインしてみると……。初めて動いて喋る瞬間まで、だいたい憂鬱なんです」
『唄う六人の女』の監督は石橋義正さん。『ミロクローゼ』(13)から10年ぶりにタッグを組む。一人で3役を演じ分けた前作とともに、山田さんに難題をぶつける印象がある。
山田「石橋監督は“そんな役、経験がない”ってチャンスをくださる方ですね。だから“絶対にやったほうがいい”と思い、お請けしました。監督は物理的に“ああしろ、こうしろ”とは言わない人で、けっこう任せてくれる。だからこそ、心の中で登場人物と話をしながら、自分で役をつくるんです。
今回も、演じる宇和島と対話しながら、彼を自分の中に取り込んで演じました。その時間は、やっぱり憂鬱です。人のいやな部分を自分で強調するわけですから。でもそうしないと、自然を破壊しようとするとどんな目に遭うかが、観ている人に伝わらない」
自分自身のCHANGEのみならず、映像作品が観客のCHANGEになるよう全力を傾けて演じる山田さん。確かに映画を観終わった後、外の景色がまるで違って見えた。
山田孝之山田孝之